Unité d'Habitation by Le Corbusier(ユニテ・ダビタシオン|ル・コルビュジエ)
スイス生まれの建築家 Le Corbusier(ル・コルビュジエ) は、20世紀の近代建築を代表する建築家の一人です。
建築だけでなく、都市計画や家具、絵画、彫刻など幅広い分野で活動し、「近代建築の五原則」や人間の身体寸法を基準とした比例システム「モデュロール」など、その思想は今日の建築にも大きな影響を与えています。
1952年、フランス・マルセイユに完成したUnité d'Habitation(ユニテ・ダビタシオン)は、ル・コルビュジエが構想した「垂直の街」を具現化した代表作です。337戸の住居に加え、商店、レストラン、ホテル、保育園、体育館、屋上庭園など、人々の暮らしを支える多様な機能を一つの建築に集約しています。第二次世界大戦後の深刻な住宅不足を背景に計画され、住宅単体ではなく都市そのものを建築によって実現しようとした、ル・コルビュジエの都市思想を象徴する建築です。
ユニテ・ダビタシオンでは、その思想が建築の細部にまで反映されています。建物を支える巨大なピロティは、地面を建築から解放し、人や緑が自由に行き交う空間を生み出します。
ル・コルビュジエが提唱した「近代建築の五原則」の一つであり、建物を持ち上げることで都市に新たな公共空間を生み出そうとする試みでもありました。
建物を支える34本のピロティ
外壁には、打ち放しコンクリートがそのまま用いられています。戦後の資材不足や経済的制約から生まれたこの仕上げは、素材そのものの表情を建築表現として肯定するものでした。
ユニテ・ダビタシオンはこの表現を象徴する建築として世界的な評価を受け、ル・コルビュジエが用いた béton brut(粗いコンクリート) という言葉は、後に「ブルータリズム(Brutalism)」の語源となります。

一方で、コンクリートの量感を和らげるように、ロッジアには赤や青、黄、緑などの色彩が施されています。これらは単なる装飾ではなく、施工上生じたプロポーションの違和感を調整するため、あるいは巨大なファサードに豊かな表情を与えるためなど、複数の意図のもと計画されたものとされています。
ル・コルビュジエがユニテ・ダビタシオンのためにデザインしたBorne Béton Grande フロアランプ
建物の周囲には、夜間の景観にも配慮した照明計画が採用されています。 照明は地面や歩行空間だけを穏やかに照らすよう設計され、必要以上に光を拡散させないことで、周囲の自然環境や夜空への影響を抑えながら、安全な動線を確保しています。

エントランスホール
内部へ足を踏み入れると、外観の力強さとは対照的に、静かな空間が広がります。建物には337戸の住戸を備えながらも、エントランスは一つしか設けられていません。一つの入口から建物全体へアクセスする構成にすることで、人と車の動線を整理し、穏やかな住環境を実現しています。
冬の庭園(Le jardin d'hiver)
建物中央に位置する3階と4階には、共用空間の中心となる「冬の庭園(Le jardin d'hiver)」が設けられています。大きなガラス壁から自然光が差し込む高さ約5メートルの吹き抜けには、全長約40メートルにわたる黒いコンクリート製のベンチが据えられています。
左:Philippe Sourdive(フィリップ・スールディヴ)による陶製装飾が埋め込まれたコンクリート製ベンチ。
この空間を特徴づけるのが、ル・コルビュジエが1951〜52年に設計した照明です。一枚の鋼板を幾重にも巻いて成形した有機的なフォルムは、蛍光灯の光を床へ反射させ、空間全体をやわらかく照らします。
その姿は海辺の巻貝を思わせます。生涯にわたり貝殻や流木などの自然物を収集していたル・コルビュジエは、「貝殻ほど美しいものはなく、それ自体が調和である」と語りました。その自然へのまなざしは照明の造形にも表れ、照明器具でありながら、一つの彫刻作品として計画されています。

左:現在も住民や来訪者が利用するレストラン右:村の商店街をモデルに計画された商業空間
同じ階には、商業施設が配置されています。村の商店街をモデルとしたこの空間には、34区画の商業施設が計画され、日用品店や工房、美容院、レストランなど、暮らしを支えるさまざまな機能が集約されました。現在では建築設計事務所や会計事務所なども入居し、用途は時代とともに変化しています。
住戸へと進むと、「内部街路(Rue Intérieure)」と呼ばれる共用空間へとたどり着きます。ル・コルビュジエの建築には、「廊下」という言葉は存在しません。彼はこの空間を「街路」と呼びました。
そこには、村の通りのような共同体を建築の中につくりたいという考えが込められています。街路はあえて薄暗く設計されています。それは、訪れる人が自然と声の大きさを抑え、共同生活への配慮を促すためです。
ル・コルビュジエがデザインした Applique Radieuse ウォールランプ
抑えられた光の中で、赤、青、黄、緑、オレンジの玄関扉がリズムよく現れます。昼間でも照明を必要とする穏やかな明るさの中では、扉が開いた瞬間に室内からこぼれる光が、住まいへ迎え入れられるような温かさを感じさせます。

ユニテ・ダビタシオンの住戸は全部で23タイプが用意され、それぞれ異なる家族構成に対応していますが、共通しているのは、人間の身体寸法をもとに考案された比例システム「モデュロール」によって空間全体が設計されていることです。これにより、空間は人の日常動作や身体の動きに自然に適合するよう計画されています。
天井高2.26メートルという寸法をはじめ、家具や収納、階段に至るまで、建築とインテリアは一つの体系として設計されています。
ル・コルビュジエがユニテ・ダビタシオンのためにデザインした Lampe de Marseille ウォールランプ。NEMO社製。
ル・コルビュジエがデザインした LC14スツールとデスク
その住空間を現在体験できるのが、「リレット・スイート」です。元々、子ども部屋として設計された空間で、8階の幼稚園で長年教育に携わった教師、Lilette Rippert(リレット・リペール)が実際に暮らしていた寝室を忠実に再現した客室です。建具や照明、金物に至るまで、空間を構成する細部の一つ一つに設計の意図が丁寧に宿っています。

NEMO社による復刻モデルが設置され、夜の室内を柔らかく照らします。
4階に位置するギャラリー「Maison Mirbel」の店内に残るオリジナルキッチン
キッチンは、Charlotte Perriand(シャルロット・ペリアン)が基本設計を手がけた、ユニテ・ダビタシオンを象徴する空間の一つです。リビングへと開かれたレイアウトや、配膳口を備えた収納家具など、限られた空間の中に機能性と暮らしやすさを両立する工夫が凝縮され、後のオープンキッチンの原型ともいわれています。その他、ユニテ・ダビタシオンには、Jean Prouvé(ジャン・プルーヴェ)も参画しており、それぞれの専門性を生かしながら空間づくりに携わりました。

ユニテ・ダビタシオンの思想は、屋上庭園において一つの完成形を迎えます。 屋上庭園は、ル・コルビュジエが提唱した「近代建築の五原則」の一つです。南側には保育園やプール、中央には体育館、北側には広場や野外劇場が配置され、教育、スポーツ、文化という三つの機能が一つの屋上に組み込まれています。
保育園は、子どもたちが日常的に遊び、学ぶための場として設けられました。現在も空間構成は当時の姿をほぼそのまま残しており、子どもたちを対象とした絵画などのワークショップが開催されています。
保育園として利用されていた建物。

窓一面に飾られた子どもたちの絵。ファサードに彩りを添え、偶然にもル・コルビュジエの色彩計画と呼応するような景観をつくり出していました。



屋上中央に建つ体育館や換気塔、彫刻的な造形は、設備としての役割を果たすだけではありません。画家・彫刻家でもあったル・コルビュジエは、建築を総合芸術として捉えており、屋上全体を一つのランドスケープとして構想しました。
屋上に立ち、外へ目を向けると、360度に広がるマルセイユの風景が目の前に広がります。ル・コルビュジエは、平らな屋根には街の喧騒から離れ、より広い眺望が得られると考えていました。地中海の空と光に包まれたこの場所は、都市の上にありながら、まるで山頂に立っているかのような開放感をもたらします。

ユニテ・ダビタシオンは、一つの建物でありながら、都市として機能することを目指した建築でした。住まいだけでなく、人々が出会い、学び、遊び、憩う場までを一体として計画することで、建築が暮らしそのものを形づくるという思想が貫かれています。完成から70年以上を経た現在も、その空間は当時の理念を受け継ぎながら、多くの人々を魅了し続けています。







