The interiors of Les Arcs by Charlotte Perriand(レ・ザルクの室内デザイン|シャルロット・ペリアン)The interiors of Les Arcs by Charlotte Perriand(レ・ザルクの室内デザイン|シャルロット・ペリアン)

The interiors of Les Arcs by Charlotte Perriand(レ・ザルクの室内デザイン|シャルロット・ペリアン)

20世紀モダンデザインを代表するインテリアデザイナー、 Charlotte Perriand(シャルロット・ペリアン)は、1927年に Le Corbusier(ル・コルビュジエ)のアトリエに参加して以降、その才能を大きく開花させました。彼女はコルビュジエや Pierre Jeanneret(ピエール・ジャンヌレ)とともに、現在も名作として知られる LCシリーズの制作に重要な役割を担い、ユニテ・ダビタシオンをはじめとする数多くの建築プロジェクトで家具や内装デザインを手がけます。

日本をはじめ東洋の美意識にも深く影響を受けながら、機能性と豊かさを兼ね備えた空間づくりを追求したペリアンにとって、 Les Arcs(レ・ザルク)の計画は、その思想を大規模に実践する場となります。数千戸規模の住居全体を統一的にデザインするこの計画は、量産化による新しいデザインのあり方を模索する巨大な実験場でもあり、既存のアイデアを技術や経済条件に適応させながら積み重ねていく、累積的なプロセスの中で形成されていったのです。

La Nova in Les Arcs 1800

前回の記事でも触れた La Nova(ラ・ノヴァ)は、レ・ザルク1800に位置する大規模レジデンスです。数あるレ・ザルクの建築群のなかでも、約2000人を収容する巨大な規模をもち、ペリアンが追求した「最小限の住宅」を象徴する建物のひとつとして知られています。それは、限られた空間の中で、いかに快適に暮らせるかという、彼女が1930年代から追求し続けてきたテーマの延長線上にありました。

La Nova(1976~1981年)

各ブロックには内部階段と二基のエレベーターが備えられており、レ・ザルク1800以降の建築に採用された緑色の金属チューブとパイン材のコントラストが、内部動線に印象的な表情を与えています。

レ・ザルクの一室は、30㎡前後の空間に5〜6人が滞在することも想定されていましたが、実際に空間へ足を踏み入れると、不思議なほど圧迫感を感じません。

その理由のひとつが、光と動線を巧みに用いた空間演出にあります。入口付近はあえて天井を低く抑え、光量も控えめに設計されている一方、奥へ進むにつれて徐々に視界が開け、最終的には大きな開口部の向こうにアルプスの風景が現れます。ペリアンはこうした「圧縮と解放」の構成によって、小さな室内に劇的な広がりを生み出しました。

これらの寸法は、戦後にコルビュジエが開発した、人体に基づいた調和のとれた寸法とプロポーションのシステム「モデュロール」に基づいています。

リビングから広がるアルプスの眺め

量産化による新しいデザインの可能性を模索していたペリアンは、当初、発泡ウレタンやポリエステル成形など、当時最先端だった工業技術の導入を構想していました。しかし、継続的な大量生産体制は整っておらず、新たな家具を一から開発する時間も限られていたため、最終的には木材や金属を用いた小規模な職人的生産へと方向転換していきます。

この制約は、結果としてレ・ザルク独自のインテリアを生み出しました。レ・ザルク1800計画で1973-1976年に建設された Les Lauzières(レ・ロジエール)で初めて採用された積層パイン材とスチール脚によるダイニングテーブルは、利用人数に応じた多様なサイズ展開によって、レ・ザルクを象徴する家具のひとつとなりました。

ペリアによってデザインされたダイニングテーブル、ベンチ、バーカウンター

こうした制約に対する解決策のひとつとして、ペリアンは過去のデザインを再編集しながら空間へ取り込んでいきました。

木製スラットによって通気性を確保したシェルフには、1952年にペリアンと Jean Prouvé(ジャン・プルーヴェ)がアフリカ向け建築で手がけた「呼吸する収納(placards respirants)」の原理が応用されています。リズミカルに反復する木材が壁面に軽やかな表情を与えると同時に、空気を循環させる機能性も備えています。

収納ユニットは標準化されており、組み合わせを変えることで異なる住戸形式へ柔軟に対応できるよう設計されています。また、それらは床や天井まで完全には届かない構成にすることで、視線の抜けを確保し、限られた室内をより広く感じさせてくれます。

壁面には、1963年よりパリのギャラリー Steph Simon(ステフ・シモン)で販売されていた、回転式シェード付きの照明 Applique À Volet Pivotant が各住戸に採用されました。非常に簡素かつ経済的な照明器具でありながら、白い壁面に添えられた色彩が空間に軽やかなアクセントを与えています。当時のレ・ザルクでは、赤と黒の2色が用いられ、インテリア全体の印象を特徴づけていました。

また、レ・ザルクの家具はステフ・シモンだけでなく、Sentou(セントー)社や地元企業など複数の製作元によって供給されていました。こうした協働体制によって、ペリアンのデザインは大規模な住空間へと展開されていったのです。

 

この一室には 、NEMO社による復刻版の Applique À Volet Pivotant が設置されています。

 

ウッド・コンクリート・金属のコンビネーションが美しいバルコニー

ラ・ノヴァでは、リビングと寝室を分けた二部屋型の住戸が採用されており、巧みなレイアウトによって、どちらの空間にもバルコニー側から自然光が行き渡るよう設計されています。

レ・ザルクを語る上で欠かせないのが、オープンキッチンの存在です。現在では一般的なこの形式も、当時のフランスでは極めて革新的なものでした。営業部門からは「顧客に受け入れられないのではないか」という懸念もあったといいます。

しかしペリアンは、調理する人が壁に向かって孤立するのではなく、ゲストや風景と関わりながら料理できる空間を目指しました。鮮やかなオレンジ色のエナメルパネルはコンパクトな室内に力強いアクセントを与えています。

レ・ザルクでは家具だけではなく、設備の「工業化」も重要なテーマでした。ペリアンは以前から、キッチンやバスルームを工場で完成させ、そのまま現場へ搬入するプレハブ方式を構想しており、レ・ザルク 1800ではその試みが本格的に実現していきます。

バスルームへと続く扉は角が落とされたデザインが採用されています。これは単なる意匠的な効果にとどまらず、空間の用途を際立たせると同時に、住居空間を分断してきた「直角の扉」という慣習そのものを問い直す試みでもありました。

室内に入ると、船舶技術を応用したポリエステル製のプレハブバスルームが広がります。その原型は、1937年にUAM(現代芸術家連盟)で発表した、山岳ホテル向けプレハブ衛生キャビンにまで遡ります。壁・浴槽・洗面・配管を一体化することで、工期の短縮と品質の均一化が図られています。

ペリアンによってデザインされたバスルーム内

レ・ザルクにおいてシャルロット・ペリアンが担った役割は、デザインにとどまりません。彼女は娘のペルネットとともに椅子や照明、食器、カトラリー、浴室用品、テキスタイルに至るまで、市販品の中から厳選し、住戸や建物ごとの詳細なリストを作成する役割を担っていました。その中には、彼女の友人である柳宗理やイサム・ノグチのプロダクトをはじめ、Achille Castiglioni(アキッレ・カスティリオーニ)、Charles Eames(チャールズ・イームズ)らの家具も選定され、レ・ザルクの空間を構成しています。

さらにレ・ザルク内には「Arc Mobilier」と呼ばれるセレクトショップが設けられ、上記デザイナーの家具をはじめ、ペリアンが選び抜いた日本、中国、イランの籠や陶器、織物といった工芸品が並びました。これは、住民による後付けの家具購入によって空間の統一性が損なわれることを防ぐという意図も含んでいました。

ペリアンによってセレクトされた Bauscher Weiden(バウシャー・ヴァイデン)社のテーブルウェア。

1989年、20年以上にわたるレ・ザルクとの協働を終えたシャルロット・ペリアン。この時期、レ・ザルクの宿泊ベッド数は27,000床を超え、年間宿泊数は160万泊に達していました。

ペリアンの空間設計の根底にあったのは、「建築は内側から外側へと進むもの」という思想です。彼女はまず、人がどのように動き、どこに座り、どこで休み、どのように風景を眺めるのかを観察し、その身体感覚を起点として空間を構成していきました。 この視点は、都市計画から建築、インテリア、家具、照明、テキスタイルに至るまで、さらには食器やタオルといった日用品にまで一貫して貫かれています。

滞在空間全体をひとつの環境として捉え、細部に至るまで統合されたデザインを行うことで、レ・ザルクはシャルロット・ペリアンの実践の集大成として、その思想と手法が最も大規模に展開された事例となりました。

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Applique À Volet Pivotant Plié Wall Lamp by Charlotte Perriand for NEMO
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