私たちの生活に漆が取り入れられた歴史は古く、その起源は縄文時代早期、約9000年前。
仏像や仏具、寺院建築に対する漆の使用は飛鳥時代には行われていたことが、記録から確認することができます。
純粋な人の手や感覚を拠り所とする、漆の製作工程
漆塗りの基本的なプロセスは「塗る」と「研ぐ」。 塗る対象の素地を整えることから始まります。表面にひび割れ等があれば、漆・糊・木の粉を混ぜ合わせたもので埋めます。
塗って埋めることを幾度か繰り返して完全に平らにしてから布を貼ります。その上にヘラで下地となる砥の粉を塗り、乾いたら石で研ぐ、を繰り返して下地をつくります。素地の手前の状態にも左右されるため、塗りの回数は決まっていません。
「研いでいると(平らになるのが)わかる」( 3代目・牧野俊之)と語られるように、その仕上がりは熟練した職人個人の感覚に拠って見極められます。
その後、砥の粉と地の粉によってさらにキメの細かい下地をつくり、ようやく漆を塗るための素地が整います。
整った漆を塗って研いで、塗って研いで・・この過程を繰り返します。塗っている形で下地の凹みなどが残っていれば、下地を補修しまた全体を研いで塗る、この過程を繰り返して漆塗りが完成します。金箔で仕上げる場合はこの表面上に箔押し師が漆を使って金箔を張る作業を行い、完成となります。
基本的には一日一工程しか進めることができません。完成までには膨大な時間が必要となります。さらに、神社仏閣や移動することが困難である仏像・仏具などの場合は、現地での塗り作業となり、気候や天候、季節などにより気温や湿度が異なってくるため、そうした外的要因に対しての臨機応変な対応が求められます。
漆の乾きの状態など、人が介入できない要素を多分に孕むため、漆本体ばかりでなく環境という側面でも、「自然」と相対する行為といえます。
漆塗りに使う道具も、職人が自作します。塗り方から道具作りまで、自己研鑽が求められる漆塗り職人の仕事。塗り方だけでなくヘラの硬さ、刷毛の毛の長さなど、道具の作り方も、同じ業界で働く別の工房の仲間と現場で道具を見せ合うなどして他者から教わりながら、職人として成長していきます。